連載:『営業改革のコンパス~規模に応じたトランスフォーメーションの最適設計~』vol.8

公開日: 2021.10.20

Share:

営業情報は製品中心ではなく「顧客データを中心」にフロントとバックをつなげる

時間を含めて営業担当者の資源を適切に管理し、「計画的に」売上が立つようにするには、現代においては顧客に関する情報管理が鍵となります。もちろん顧客の情報といっても、ウェブサイトで拾える情報、外部から購入できる情報などはだれもが簡単に入手できるもので、競合他社に差をつけられる情報ではありません。インターネットで検索しても出てこない情報をいかに会社の共有財産として集約し、活用していくかが、競争を勝ち抜くうえで重要なポイントになってきます。

たとえば、「いつも見積は3社以上と比較し、必ず値引きを求めてくるお客様だが、年度末に余った予算で社員旅行したり、社員表彰の景品を買ったりする。その際の価格交渉はあまりない」というような、どこにも載っていない情報を営業担当者がつかんでいれば、期末の売上成績は確実に変わってくるはずです。

では、そのような営業データ管理を行うにはどのようなところに気をつければいいのでしょうか。営業の頭の中や手帳にメモされていたような情報。これまでの情報システムには抜け落ちていた情報。それを使える情報としてまとめるには、情報システムを「顧客中心の考え方」で設計しなおすことです。

ビジネスはそもそも、需要と供給がマッチしないと成立しません。会社の供給と顧客の需要。その間に存在するのが営業だとすれば、この「需要と供給がマッチすること」が最も重要なことです。

戦後は需要が強かった時代が長く続いたため、企業はその需要を満たすために製品を軸にした仕組みを中心に整備してきました。例えば、工場設備、製品開発、在庫・流通管理などに大規模な投資を行い、製品や会社の存在を多くの人に知らせるための広告・宣伝を中心としたマーケティング活動を行う。とにかく需要は強かったのですから、まず製品ありきの会社の仕組み作りが重要だったのです。

販売活動においては、知名度とともに顧客とのコネクションが注文獲得のための重要な要素でした。インターネットが無い時代、顧客は自ら調べる手段をほとんど持っていませんでした。そこで足しげく通って、世の中はどう変化しているのか、最近はどんなものがあるのかを説明してくれる営業は大変頼りにされていました。

このような状況が長く続くと、これが当たり前のように感じ始めます。顧客に関する情報管理の仕組みには会社として投資をする必要がない。現場の営業担当者まかせで問題なく、ビジネスの優先順位は供給が先である。サポートのための管理情報は顧客情報というよりも納入製品情報であり、シリアルナンバーが最重要情報である。

もちろんこれは時代にあった考え方であり、正しい判断です。如何に効率よく、品質の良い製品を大量に安く作るかが第一なので、企業の情報管理は開発や生産など製品を軸に設計されていました。

ただ、この考え方は需要が強い時代は通用しても、供給過剰になり、買い手が強い時代には通用しません。現代においては、この考え方は企業の足を引っ張る考え方になりつつあります。どんなに良い製品をつくっても顧客には大きな差とは認識されなくなりました。

それよりも、調査会社のホワイトペーパー、ネット上での評判や比較サイトでのレビューなど、顧客が信頼を寄せる10種類あるといわれる情報源に自社の製品が掲載されていることが重要になりました。

当然、なかなか計画通りには売れません。爆発的なヒットもあれば、まったく売れない時もあります。売り手のペースが崩れ、生産計画を先に立てても、その通りに販売できることはまれであり、供給過剰が現場の値引き販売を助長するようになったのです。

そこで考えなくてはならないのは、顧客中心の考え方でシステムやデータを整理し直し、生産計画より販売計画を先に行う考え方に転換することです。

Vol8_pic.png

これまでの「この製品を購入した人は、誰」という購入(販売)情報のみの記録から視点を180度変更し、「この人は、製品を買った(買わなかった)」「この人は、なぜその製品を買ったのか(買わなかったのか)」という記録を残すシステムにするということです。顧客を中心にすることで、購入情報だけでなく、未購入の情報も残し、売れなかった理由を分析することで市場分析に生かす方法です。

残念ながらほとんどの企業の場合、これまでそうした「検討したが買わなかった」情報は営業担当者の頭や手帳の中にあるだけでした。

ヒト、モノ、カネを効率的に管理するために導入されたサプライチェーン・マネジメント(SCM)やエンタープライス・リソース・プランニング(ERP)など、多くの企業が多額の投資をしてきた情報システムには、残念ながら次の製品開発のヒントを探すうえで最も重要な「現場のお客様の生の声」は記録されてなかったのです。

今は、顧客接点で生まれたアイデアやニーズを、どれだけバックエンドに適切に伝え、それをもとに適切な製品やサービスをつくって提供できるかどうかで、企業の生死が左右されるような時代になっています。顧客の生の動きがわかるようになり、企業として適切な対応がリアルタイムにできるようになったのです。

次回公開は10/29(木)を予定しております。

著者:田崎純一郎(たさき じゅんいちろう)

セールスフォース・ドットコム

セールスイネーブルメントシニアディレクター

————————————————

完全版eBookをダウンロード提供中

本連載『営業改革のコンパス~規模に応じたトランスフォーメーションの最適設計~』第3章(Vol. 10〜13の記事)は、完全版のeBookにまとめています。ぜひ、下記からダウンロードしてお読みください。

第3章 ダウンロードはこちら

Vol. 6~9の記事は第2章の内容になります。第2章のeBookにて完全版を公開しております。ぜひ、下記からダウンロードしてお読みください。

第2章 ダウンロードはこちら

Vol. 1〜5の記事は第1章の内容になります。eBookにて完全版を公開しております。ぜひ、下記からダウンロードしてお読みください。

第1章 ダウンロードはこちら

連載記事

<第1章>
Vol. 1 営業改革で解決したい課題は何か - 営業組織の規模と営業改革テーマ

Vol. 2 営業マネジメント50人の壁 ― 営業支援システムの導入率からみる営業組織の課題

Vol. 3 営業組織の規模によって異なる課題感 ― データの収集と活用

Vol. 4 現場が見えなくなる中規模組織

Vol. 5 使いこなせていない51名以上の営業組織は「営業案件の可視化やパイプライン管理ができていない」

<第2章>

Vol. 6 営業活動は不完全情報ゲーム

Vol. 7 営業を“群衆”ではなく“組織”に -情報を使って160時間の使い方を最適化

Vol. 9 作ったものを売る営業から、売れるものを作る会社へ

<第3章>

Vol. 10 営業改革プロジェクトでは、どんな困難に直面するのか?

Vol. 11 チームの結成・メンバーの選定 ~ 方針決定、ビジョンやゴールの設定、価値観のすり合わせ

Vol. 12 情報プラットフォーム(ITシステム)選定 ~ 組織変更の実施、教育・社内トレーニング

Vol. 13 KPI、データ分析と活用 ~ 定着化と展開

<関連セミナーご案内>

Salesforceでは、営業改革をサポートするウェブセミナーをご用意しています。あらゆる企業規模・業界において営業マネージャーの方々がどのようにSalesforceを活用すべきかをご紹介します。ぜひご活用ください。

公開日: 2021.10.20

Share:

Salesforce活用に役立つメルマガ登録

  • 私は、個人情報保護基本方針プライバシーに関する声明個人情報利用についての通知に同意します。 特に、プライバシーに関する声明で定めるとおり、情報のホスティングと処理を目的として私の個人データをアメリカ合衆国を含む国外に転送することを許可します。詳細私は、海外では日本の法律と同等のデータ保護法が整備されていない可能性があることも理解しています。詳細はこちらでご確認ください

  • 私は、Salesforce の製品、サービス、イベントに関するマーケティング情報の受け取りを希望します。私は、当該マーケティング情報の受け取りを私がいつでも停止できることを理解しています。